私は夫と出会うまで子供を産みたいなんて思わなかった。
だから「子供なんて産みたくない」と発言している女性の気持ちが少しわかる。
私はずっと女性が子供を産みたい理由を「本能」で片付ける意味がわからなかった。
「女として出産を経験してみたい」という理由と引き換えにするには、出産は女性にとってリスクが多すぎると思っていたからだ。
私が過去に感じていた子供を産みたくない理由やきっかけ、産みたいと思うようになった変化をまとめてみた。
小学生で観た出産動画のトラウマ
私が小学生の頃、保健の授業で女子だけが教室に残って出産シーンのビデオ動画を先生に観せられたことがある。
その内容が子供にはとても衝撃的で、出産の恐怖だけが私の脳裏に植え付けられた。
はち切れそうに大きいお腹の妊婦が汗だくで髪を振り乱し、痛そうにいきむ姿を観て「この人何でこんな辛い思いしてまで産むんだろう」と不思議に思った。
生まれるシーンも編集など一切なく、赤ちゃんが出てきた。
ビデオ上映が終わると先生が「感動的な出産でしたね!子供が生まれるって神秘的ですね!」と言っていたが、私は「気持ち悪いし痛そうで怖いから出産なんて一生したくない」としか思わなかった。
私だけではなく、教室にいた女子全員が終わった後に同じ感想を言っていた。
なんで女性だけがこんな大変な思いをしないといけないのだろう。
女子たちがこんな気分の悪い画像を観ている間に男子は外でドッジボールをして遊んでいる。不公平だ。男子こそ出産シーンを観て大変さを思い知るべきではないかと思った。
子供を産ませたがる親や社会との温度差
孫の顔を早く見たいと思う親は多いのかもしれないが、そんな気持ちが逆効果になる場合がある。
父親は私が1歳の時に「きなこが将来嫁に行くと思うと…」と号泣したらしいので結婚しろとは一切言われなかったが、母親は「孫の顔を見たい」とうるさかった。
隣の家の赤ちゃんを借りてきて私に抱かせ、無理やり母性を目覚めさせようとしたこともあった。
孫を見たい気持ちはわかるが、そういうことをされると「早く子供を産め」と脅迫されている気分になる。
私はずっと未婚女性を負け犬と表現したり、子供がいない人を不幸せと決めつける考え方はおかしいと思っていた。
結婚や出産は本人の自由だし、幸せの基準は他人が判断することではない。
お付き合いをした男性も何人かいたが、結婚して自分の子供が欲しいという夢を語る一方で「男を立てる女性がいい」とか「共働きでも家事は女性の仕事」という考え方だと冷めてしまう。
そんな人の子供を産んだら、自分ばかりが苦労するのが目に見えている。
何の覚悟もないまま毎日を仕事で慌ただしく過ごしているうちに、20代後半と言われている出産適齢期は迫ってくる。
そんな「出産の現実」から目をそむけたまま20代~30代前半の時間は過ぎ去っていった。
仕事のキャリアと子供のどちらを選ぶか
出産は痛みを伴うし命がけだ。
妊娠すれば女性が積み上げてきた仕事のキャリアや夢をつわりや産休で諦めなければならない場合もある。
体型も崩れやすくなるし、産んだあとは子供にお金や時間を奪われてしまう。
「子供が好きだから。可愛いから産んでみたい」という理由だけで産むとしても、子供が五体満足に生まれるとは限らない。
「産んでみたい」という理由だけで産む人は、自分が理想とする赤ちゃんと違った場合どうするのかちゃんと考えているのだろうかと不思議だった。
「案ずるより産むが易し」ということわざがあるが、人生を左右する決断を行き当たりばったりで決める感覚が私にはわからなかった。
「可愛い赤ちゃんを産めばかけがえのない時間を過ごせるのかもしれない」とぼんやりとした理想を考えたりもするが、そうはいかなかった時に自分や結婚相手はどうするのだろう。
子供を産みたくないという女性は色々なリスクや不安を現実的に考えすぎてしまうのかもしれない。
夫との子供が欲しいと思った理由
私の夫はとても優しくて心が広いと思う。
彼は付き合っていた頃から、私を自分の物のように束縛したりはしなかった。
自分の理想を押し付けたりしないし、私という人間をただ信じて認めてくれた。
彼は私の趣味に興味はないがやめろとも言わず自由にさせてくれるし、私も彼の趣味に興味がないので無理やり共有しようと思わない。
意見が食い違えば話し合いで解決できるし、無理をしなくていいから一緒にいてすごく居心地がいい。
「この人なら一緒に苦労を共にできるかもしれない」と思えたから結婚したし、子供が欲しいと初めて思うことができた。
夫は2人兄弟の長男だが、弟は学生時代の交通事故でずっと寝たきりの植物状態だ。
今は夫の両親がつきっきりで自宅介護をしているが、将来は私たちが面倒を見ていかなければならない。
義母の「孫の顔が見たい」という感情は当然で、私はプレッシャーで精神的に追い詰められていった時期があった。
そんな時、夫は私に「子供を諦めよう」と言った。
どうしてそんなことを言うのかと怒鳴ったら「だってすごく辛そうだから…そんなに辛い思いをさせるなら子供なんていなくていい」と言ってくれた。
こんな事を言わせてしまった申し訳なさと、子供より自分を優先してくれる夫の優しさに涙が出た。
改めて「子供を産めなくても私を認めてもらえるんだ」と思えて嬉しかったし、やれるだけのことをしてから諦めたいと不妊治療に踏み切るきっかけになった。
まとめ
女性が子供を産みたい理由は人それぞれで正解なんてないと思う。
結局、私も行き当たりばったりの判断で子供がほしいと思っているのかもしれない。
体外受精で運良く妊娠できたが、高齢出産は色んなリスクも高くなる。
「もしも障害をもった子供が産まれたらどうしよう」と夫にたずねたことがあった。
すると夫は「うちの両親は弟が植物状態でも生きているだけで嬉しい。だから俺もどんな子供でもきっと可愛いと思う」と答えた。
その答えを聞いて「ああそうか…子供って生きてるだけで嬉しいんだ」と思えた。
自分のキャリアがマイナスになるとかリスクとか時間がなくなるとか、もうどうでもよくなっている。
私にとって「子供を産んで親になりたい」という感情は、損得で考えられなくなるということなのかもしれない。